2019年06月12日
No.194 「うみべのまちで」

実際の紙面はコチラ(公開期間は発行から1カ月間です)
BL出版
文:ジョアン・シュウォーツ
絵:シドニー・スミス
訳:いわじょう よしひと
父親を通して自分の将来を見つめる少年の姿を見開きのたっぷりした画面に描いた作品。
時は一九五〇年代。場所は海辺の炭坑町。少年の部屋のカーテンの向こうは、海。おつかいの行き帰りに通るのも海沿いの道。おじいさんのお墓があるのも海の見える丘の上。少年のそばにはいつも光り輝く海があり、その下に掘られた暗い炭坑で彼の父親は働いているのです。
父親もおじいさんも炭坑夫として家族を支えてきました。そして自分もその仕事に就くのだということを、彼は自覚しています。それがどれほど危険な仕事であるかということも。
炭坑で働くことへの覚悟と迷い−−夜、目を閉じると聞こえてくる波の音のように行きつ戻りつする少年の思いは、明るい景色の合間に繰り返し描かれる真暗な炭坑の様子から伝わってきます。
「ぼくは たんこうで はたらく とうさんの むすこ。ぼくの まちでは、 みんな そうやって いきてきた。」
少年が自分に言い聞かせるこの言葉で、絵本はしめくくられています。
(ぶどうの木代表・中村 佳恵)
2019年05月08日
No.193「ふしぎなたいこ」

岩波書店
文:石井 桃子
絵:清水 崑
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げんごろうさんはふしぎなたいこを持っていました。片側をたたきながら「はな たかくなれ」というと鼻が伸び、反対側をたたきながら「はなひくくなれ」というと鼻が縮むのです。このたいこは人を喜ばせるためにしか使ってはいけないことになっていました。
ところがある日、げんごろうさんは、人間の鼻がどのくらい伸びるものかためしてみたくなり、たいこをたたき続けました。
「どんどこ どんどこ」鼻が重くて立っていられなくなりましたが、それでもまだまだ「どんどこどんどこ」。とうとう鼻は天まで伸びていきました。
一方天国では、天の川の橋の工事の真最中。大工さんはげんごろうさんの鼻を棒と勘違いし、橋の欄干にくくりつけてしまいました。
異変に気付いたげんごろうさんが鼻を縮めようとたいこをたたいたところ、大変なことに!
琵琶湖にいる「げんごろうぶな」のいわれを説いた昔話。他にも二篇のおはなしが入っています。墨絵風のユーモラスな絵が、おはなしのおもしろさを一段とひき立てています。
(ぶどうの木代表・中村佳恵)
2019年04月10日
No.192「なぞなぞあそびうた」

のら書店
さく:角野栄子
え:スズキ コージ
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「あっちにも こっちにも きんボタン はらっぱは はるの チョッキを きたのね」
なぞなぞは、わずかな言葉からイメージを広げてそこに意味されるものをあてる言葉あそびで、知識を問う「クイズ」とは違い、おとなよりも発想の柔軟な子どものほうが答えをぱっと導きだせるようです。
「なぞなぞ ならんだ ぞなぞな ぞろり…」という不思議なとなえ文句ではじまるこの2冊の本には、なるほど!と思わせるたとえや、ひねりをきかせたなぞなぞが113題入っています。
たとえば
「かいちゅうでんとう もってるくせに ゆきさき てらさず きたみちてらす」
懐中電燈というからには光に関するもののようです。その光で進行方向とは逆を明るくするものとは?
答えは、「ほたる」。
ひとりで解くのもいいけれど、問いかける人と答える人との間に生まれる緊張感がなぞなぞの魅力の一つ。声に出して読み合うことでおもしろさが増してきます。
最初のなぞなぞの答えは「たんぽぽ」です。
(ぶどうの木代表・中村佳恵)
2019年03月13日
vol.191「ぞうのババール こどものころのおはなし」

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評論社
作:ジャン・ド・ブリュノフ
訳:やがわすみこ
一九三一年にフランスで刊行された傑作絵本の一つ。
子ぞうのババールは森の中で仲間と平和に暮らしていました。ところがある日、猟人がやってきてかあさんを撃ち、ババールもねらわれます。
必死で逃げ、たどり着いたのは大きな町。そこで、ぞうの気持ちは何でもわかる大金持ちのおばあさんに出会い、一緒に暮らすことになりました。
まずは高級デパートで洋服を買い、記念撮影。車で郊外を散策したり、大学の先生に勉強を教わったり、サロンでの談話に加わったりなど、人間世界の楽しさを満喫。でもそのうちにふるさとが恋しくなり、ぞうの国へ戻ることにしました。
文化と教養を身につけて帰ってきたババールは新しい王さまに選ばれ、いとこのセレストとの結婚も決まり、めでたし、めでたし。
この本は二匹が気球で新婚旅行に出かけるところで終わっていますが、続巻には旅行中の災難が描かれ、さらに、王としての活躍ぶりややんちゃな息子たちに手を焼く様子…など、ババール一代記は続いていきます。
(ぶどうの木代表・中村佳恵)
2019年02月13日
vol.190「てんぷら ぴりぴり」

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大日本図書
著者:まど・みちお
装幀・画:杉田 豊
これは「ぞうさん」などの童謡で知られる周南市出身のまど・みちおさんが57歳の時に出版した第一詩集です。
「ほら おかあさんが ことしも また/てんぷら ぴりぴり あげだした」
表題詩「てんぷらぴりぴり」でお母さんが揚げているのはシソの実の天ぷら。はじけるような言葉のリズムから、シソの実が口の中でぷちっと音をたて、香りを放つ快感がイメージできます。
掲載された29篇の詩の中には、すわっているようでもあり寝ころんでいるようにも見えるつけもののおもしの姿や、たたみをころがっていく小さなビーズの動きなど、見過ごしてしまいがちな身近なものの存在の意味を深く問う内容のものも多く見られます。
一〇四歳で亡くなるまで「びっくりしたなあ」「しらんかったなあ」「ありがたいなあ」を口癖に詩をつくり続けたまどさんの柔軟なもののとらえ方や、対象を謙虚に見つめる姿勢は、この第一詩集からも感じとることができます。
今月二十八日はまどさん五回目の命日です。
(ぶどうの木代表・中村佳恵)
2019年01月16日
vol.189「はじまりの日」

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岩崎書店
作:ボブ・ディラン
絵:ポール・ロジャース
訳:アーサー・ビナード
この本は、ノーベル文学賞受賞者のボブ・ディランが自分の息子に向けて作った歌を、第6回中原中也賞を受賞した詩人のアーサー・ビナードが日本語に訳し、ディランを敬愛するポール・ロジャースが絵をつけた作品です。
ディラン自身が「意気込んだわけじゃなく、自然にうかんできて、そのままできあがった。」と言っているように、歌詞には子どもの成長を見守る父親の思いが軽やかにもりこまれています。
「きみが 手をのばせばしあわせに とどきますように」「背を まっすぐのばして いつでも 勇気がもてますように」
絵の中の少年は、あこがれのシンガーソングライターからギターをプレゼントされます。そしてこの歌詞の内容どおりに成長し、キング牧師らとともに平和の大切さを歌で伝えていくのです。
ディランゆかりの人や場所が随所に描かれ、そこから彼の人生を辿れるのもこの本の面白さ。
「フォーエバー・ヤング」を「はじまりの日」と訳すなど、訳者のすばらしい日本語のセンスも味わってみてください。
2018年12月12日
Vol.188「さむがりやのサンタ」
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福音館書店
作・絵:レイモンド・ブリッグズ
訳:すがはら ひろくに
子どもたちが心待ちにしているクリスマスを、サンタクロースはどんなふうに過ごしているのでしょう。
クリスマスイヴの朝、この本のサンタが目覚めると同時につぶやいた言葉は「やれやれ、また クリスマスか!」
そうです。今日はサンタにとって一年で一番忙しい日。寒い、眠たいなど言ってはいられません。身支度を整え、朝ごはんをたっぷり食べ、そりにプレゼントをのせ、いざ出発。雪が降ろうが霧にかこまれようが走り続け、ひと晩中プレゼントを配って回らなければなりません。
明け方、牛乳屋さんが配達をはじめる頃にようやく終了。最後のお届け先は女王陛下の宮殿。
家に帰っておふろにつかり、ひとりでゆっくりクリスマスディナー。飼い犬たちにプレゼントを渡して仕事は完了。最後に読者に向かって一言。「ま、おまえさんも たのしいクリスマスをむかえるこったね」
英国らしいひねりをきかせたユーモアを含んだ作品。コマ割りで描かれているのでサンタの細かい仕草まで楽しめます。

福音館書店
作・絵:レイモンド・ブリッグズ
訳:すがはら ひろくに
子どもたちが心待ちにしているクリスマスを、サンタクロースはどんなふうに過ごしているのでしょう。
クリスマスイヴの朝、この本のサンタが目覚めると同時につぶやいた言葉は「やれやれ、また クリスマスか!」
そうです。今日はサンタにとって一年で一番忙しい日。寒い、眠たいなど言ってはいられません。身支度を整え、朝ごはんをたっぷり食べ、そりにプレゼントをのせ、いざ出発。雪が降ろうが霧にかこまれようが走り続け、ひと晩中プレゼントを配って回らなければなりません。
明け方、牛乳屋さんが配達をはじめる頃にようやく終了。最後のお届け先は女王陛下の宮殿。
家に帰っておふろにつかり、ひとりでゆっくりクリスマスディナー。飼い犬たちにプレゼントを渡して仕事は完了。最後に読者に向かって一言。「ま、おまえさんも たのしいクリスマスをむかえるこったね」
英国らしいひねりをきかせたユーモアを含んだ作品。コマ割りで描かれているのでサンタの細かい仕草まで楽しめます。
2018年11月14日
vol.187「じゃむ じゃむ どんくまさん」

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至高社
文:蔵冨千鶴子
絵:柿本幸造
どんくまさんが木の下で昼寝をしていると、頭の上にりんごが落ちてきました。
見上げると、りんごがすずなりです。どんくまさんはおもしろがって木をゆすり、りんごを全部落としてしまいました。
そこへやってきたのはこの木の持ち主、うさぎのじゃむ屋さん。りんごを取る手間がはぶけたと喜んで、ついでとばかりに、どんくまさんにりんごをうちまで運んでもらい、じゃむ作りの手伝いを頼み、その上、できたじゃむを売る仕事もどんくまさんに任せます。
「りん りん りんごじゃむ できたての りんごじゃむ いりませんか」
元気な売り声に誘われて、お客さんがたくさん集まってきました。ところがどんくまさん、じゃむをただでみんなにあげてしまったのです。
どんくまさんの気のよさは、紙質にこだわりを持って作られたこの本のやさしい手触りと色合いからも伝わってきます。
腹をたてたじゃむ屋さんとも最後は仲直り。二人でもう一度じゃむを作るページからは、甘い香りが漂ってきそうです。
(ぶどうの木代表・中村佳恵)
2018年10月10日
vol.186「ちいさなねこ」

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福音館書店
作:石井 桃子
絵:横内 襄
大きくあけはなたれた縁先の障子。その奥にひろがる座敷にすわっているのは小さなねこ。耳をぴんと立て、じっと外を見据える姿には、何かが起こりそうな気配が感じられます。
ページをめくると、子ねこはひとりでかけ出しました。外には危険がいっぱい。男の子につかまったり、車にひかれそうになったり。その都度何とか逃げ切りましたが、三番目に出くわしたのは大きな犬。子ねこは通せんぼする犬の鼻をひっかき、高い木のてっぺんにのぼってあらん限りの声をあげました。
それを聞きつけたのはお母さんねこ。「ふうっ!ちいっ!」と犬を追い、子ねこを助けに木の上へ一気にかけ上ります。
無事木から降り、子ねこを口にくわえてうちへ帰る母ねこの姿の堂々としていること。
そして最後は、「おおきな へやで ちいさなねこが おかあさんの おっぱいを のんでいる。」
短い文章に導かれて描かれた写実的な絵によって、どの画面もきりっと引き締まり、冒険の緊張感が伝わってきます。
(ぶどうの木代表・中村佳恵)
2018年09月12日
vol.185「おじいちゃんの口笛」

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ほるぷ出版
作:ウルフ・スタルク
絵:アンナ・ヘグルンド
訳:菱木晃子
「ぼく」のおじいちゃんは、会うと必ずお小遣いをくれ、時々魚つりにつれて行ってくれます。おじいちゃんのいないベッラはうらやましくてなりません。そこで「ぼく」は、おじいちゃんを見つけられる場所へベッラを案内しました。そこは、老人ホーム!
ベッラは一人きりでトランプあそびをしていた老人、ニルスさんを見つけ、その人を自分のおじいちゃんにすることに。その日から二人はニルスさんに会いにホームへ通います。
部屋に閉じこもりがちだったニルスさんは、二人に誘われて外に出ることで、日の光をあび、風の運ぶ香りをかぐ幸せを思い出します。
鳥のさえずりにあわせて口笛をふくニルスさんを見てベッラも挑戦しますがうまくいきません。
「こんど会うときには おまえの口笛がききたいな」
「うん、おじいちゃん。きっときかせてあげる」
しかし、ベッラはニルスさんに口笛を届けることはできませんでした。
別れの辛さよりも、ニルスさんの最期の数日が幸せいっぱいだったことが心に残る作品です。
(ぶどうの木代表・中村佳恵)