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2002年11月03日

札の辻・21

 ”紋次郎は月へと視線を遊ばせた。これほどじっくりと仲秋の名月を眺めることは、十年に一度あるかないかであろう。「月見団子の代わりに、これをどうぞ」と九兵衛が竹の皮の包みを出した。中味は焼饅頭であった。素饅頭に味噌を塗って焼いただけだが、近ごろ上州で人気を呼んでいる。紋次郎は二本の串を両手に持った。”時代小説、上州新田郡三日月村生まれの木枯紋次郎を書いた笹沢佐保が、10月21日の夜に亡くなった。同夜は仲秋の名月ではなかったが、ひと月遅れの満月で十三夜だった。
 上州は名物の空っ風と呼ばれる赤城おろしの吹きつける乾燥地帯が多く、畑作による麦、蕎麦などが生産され、粉食王国とまで呼ばれている。
 その粉食の中でも安政年間から造られている焼饅頭は、小麦粉を水でこね、米麹を混ぜて発酵させた饅頭に味噌だれを塗って焼いたもので、達磨市と呼ばれる前橋の正月初市や春秋の祭礼にはこれを売る露店も並び、香ばしい匂いが漂う。それは、空っ風の国で働き者の「かかあ天下」が育てた素朴でうまい郷土食なのだろう。
 同じ時代小説でも池波正太郎の鬼平や剣客商売には、江戸前の下町食文化が多彩 に登場するのに対し、木枯紋次郎には道中ぐらしの切羽詰まったきびしさがのぞく。
 ”紋次郎が懐中からつかみ出したのは、掛け茶屋で買った豆餅であった。固くなりかけた豆餅を少しづつ噛んでのみ下す。味は二の次で体力を失わぬ ために喰べる。”
 「紋次郎・さらば手鞠唄」の一節である。
 十三夜の月に竹楊子の笛の音は消えた。 (鱧)


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Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)札の辻
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