2003年06月15日
札の辻・21
96年8月、カムチャッカでの取材中、ヒグマに襲われ急逝した写真家星野道夫の作品展を、先週大阪・高島屋で観た。
極北アラスカの自然と野生の生態を捉えたカメラは、ほのぼのと温かく心を溶かしてくれた。
限りなく広がる雪と氷の大地を、白い北極グマの親子3匹が、縺れるように歩いている。カリブーの大集団が、束の間の陽光にきらめく氷河を一列縦隊になって渡る。無窮の大地を、誰に妨げられることなく、何千年、何万年と日月を踏みしめてきたカリブーの旅は、北の原野に伝わる永遠のドラマだと思った。
朔風に削られ、鋭角の山容がつづく白銀の大山脈に向かい『動物も植物も雪と関わりながら、この大地の切れるような冬を生きている生きものたちは、生存のために雪に適応してきただけでなく、生存のために雪が必要であったのだ』と星野は解説を残す。
白夜の6月には、昼と夜が交替するしじまにオオカミと対面し、ツンドラに野の花の芽吹く遅い春には、北極キツネ、白頭ワシ、シロフクロウなど被写体たちの個性が匂い、躍動の息づかいを感じさせる。
『いつの日か自分の肉体が滅びたとき、私も好きだった場所で土に帰りたいと思う。ツンドラの植物にわずかな養分を与え、小さな花を咲かせる。そんなことを私は考えた』。当時44歳の彼は、すでに死のシャッターチャンスを探っていたのか。ヒグマに襲われたその瞬間、真っ白になった脳裏のキャンバスに、野生と人間の極限を感じたであろうか。ツンドラと命。カメラの残映が悲しいまでに美しい。(鱧)
極北アラスカの自然と野生の生態を捉えたカメラは、ほのぼのと温かく心を溶かしてくれた。
限りなく広がる雪と氷の大地を、白い北極グマの親子3匹が、縺れるように歩いている。カリブーの大集団が、束の間の陽光にきらめく氷河を一列縦隊になって渡る。無窮の大地を、誰に妨げられることなく、何千年、何万年と日月を踏みしめてきたカリブーの旅は、北の原野に伝わる永遠のドラマだと思った。
朔風に削られ、鋭角の山容がつづく白銀の大山脈に向かい『動物も植物も雪と関わりながら、この大地の切れるような冬を生きている生きものたちは、生存のために雪に適応してきただけでなく、生存のために雪が必要であったのだ』と星野は解説を残す。
白夜の6月には、昼と夜が交替するしじまにオオカミと対面し、ツンドラに野の花の芽吹く遅い春には、北極キツネ、白頭ワシ、シロフクロウなど被写体たちの個性が匂い、躍動の息づかいを感じさせる。
『いつの日か自分の肉体が滅びたとき、私も好きだった場所で土に帰りたいと思う。ツンドラの植物にわずかな養分を与え、小さな花を咲かせる。そんなことを私は考えた』。当時44歳の彼は、すでに死のシャッターチャンスを探っていたのか。ヒグマに襲われたその瞬間、真っ白になった脳裏のキャンバスに、野生と人間の極限を感じたであろうか。ツンドラと命。カメラの残映が悲しいまでに美しい。(鱧)
Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)
│札の辻