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2005年06月08日

毎朝の旅 1

 私は毎朝、小さな旅に出る。まだ寝床の暖かさを手足の先に黄色く残した身体で旅に出る。旅といっても家からは出ない。なんだか判じ物みたいだけれど、なんということはないのです。私の部屋の、古机の上のパソコンの中への旅。ピンクのちょっと毛羽立った座布団のお尻の窪みに合わせて座り、パソコンのスイッチを入れる。キーキーキという乱れたリズムの機械音を立てるインターネットに接続し、ルーブル美術館にクリックして、そこに散歩に行くのです。
 早起きし過ぎて時間のある時は、その中をブラリブラリと長く散歩する。「イエスの割礼」、鼻しかない「キュクラデスの偶像」、細い、細い「ネミ湖の女神像」、「皇妃ジョゼフイーヌの肖像」にうやうやしく挨拶して…気のむくままに、歩くのだけれど、急ぐときには、二つの作品だけを観る。
 一枚は「サモトラケのニケ」、もう一枚は「フィリップ・ポーの墓」。
 「サモトラケのニケ」は皆さんご存知のあの有名な作品。エーゲ海のサモトラケ島で発見され、ルーブル美術館に持ち込まれ、現在はダリュの階段の踊り場にある。舳先に立つ勝利の女神。風が女神のはちきれんばかりの身体をあらわにし、まとわりつく衣の襞がリアルで見事だ。臍の窪みまで意味ありげに見える。そこに、私は希望と勇気を見る。朝のぼんやりした私の身体に気力が満ちてくる。首から上がないので、そこらのギリシャ彫刻の女の顔をのせてみたが、希望と勇気が消えることはなかった。


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Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)おんなの目
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