アクセスカウンタ
QRコード
QRCODE
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 69人

店長情報 トップページ
店長情報

2005年06月15日

毎朝の旅 2

 彫刻「フィリップ・ポーの墓」については、なにも知らない。偶然テレビの美術番組で観て、朝の散歩のメニューに加えたのだ。
 死んだ男が、生前そのままの煌びやかな衣装のまま、磨かれた板のようなものの上に寝かされ、8人の男の肩で抱えあげ運ばれている。墓地に向かっているのだろうか。男達は、頭から全身黒の衣をまとっている。解説は、彼等は泣き男だと言った。肩から斜めに金色の刺繍のされたカバンを下げている。衣のザワザワという擦れる音が聞こえてきそうだ。画面を拡大して見ると、泣き男の被りものからチラリと見える唇は笑っている。全体も死者の葬列にしては、芝居じみてて滑稽だ。ここには一人の男の終わりがあるが、何故か浮いたようなざわめきもある。男を埋葬し泣き声を張り上げた後には酒盛りが始まるのだろう。黒衣は、次の死人のために丁寧に畳まれる。死は日常茶飯事だったのだろう。人はすぐ死んだのだ。そっけなく死んだ。「おはよう、我が恋人達よ」と、画面の二つの彫刻に語りかける声で私の一日が始まる。何故か惹かれる二つの作品。中年の終わりの極普通の女の私がなぜ、首のない“サモトラケのニケ”や“フィリップ・ポーの墓”の葬列が毎朝観たいのかわからない。その理由を知るためにも、一度は本物を見る少し長い旅に出たいと思っている。ニケの足元や風を受けた翼の陰、フィリップ・ポーの棺の中から、泣き男の黒衣の下から、秘密が見えてくるかもしれない。それは私の心の、私も気づかない秘密かもしれない。


同じカテゴリー(おんなの目)の記事
 見事なびらん (2019-07-24 00:00)
 主題 (2019-07-17 00:00)
 バスが来たら (2019-07-10 00:00)
 居るよ、居る、居る。 (2019-07-03 00:00)
 きんと雲 (2019-06-29 00:00)
 本の海に潜って (2019-06-19 00:00)
Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)おんなの目
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。