2005年06月15日
毎朝の旅 2
彫刻「フィリップ・ポーの墓」については、なにも知らない。偶然テレビの美術番組で観て、朝の散歩のメニューに加えたのだ。
死んだ男が、生前そのままの煌びやかな衣装のまま、磨かれた板のようなものの上に寝かされ、8人の男の肩で抱えあげ運ばれている。墓地に向かっているのだろうか。男達は、頭から全身黒の衣をまとっている。解説は、彼等は泣き男だと言った。肩から斜めに金色の刺繍のされたカバンを下げている。衣のザワザワという擦れる音が聞こえてきそうだ。画面を拡大して見ると、泣き男の被りものからチラリと見える唇は笑っている。全体も死者の葬列にしては、芝居じみてて滑稽だ。ここには一人の男の終わりがあるが、何故か浮いたようなざわめきもある。男を埋葬し泣き声を張り上げた後には酒盛りが始まるのだろう。黒衣は、次の死人のために丁寧に畳まれる。死は日常茶飯事だったのだろう。人はすぐ死んだのだ。そっけなく死んだ。「おはよう、我が恋人達よ」と、画面の二つの彫刻に語りかける声で私の一日が始まる。何故か惹かれる二つの作品。中年の終わりの極普通の女の私がなぜ、首のない“サモトラケのニケ”や“フィリップ・ポーの墓”の葬列が毎朝観たいのかわからない。その理由を知るためにも、一度は本物を見る少し長い旅に出たいと思っている。ニケの足元や風を受けた翼の陰、フィリップ・ポーの棺の中から、泣き男の黒衣の下から、秘密が見えてくるかもしれない。それは私の心の、私も気づかない秘密かもしれない。
死んだ男が、生前そのままの煌びやかな衣装のまま、磨かれた板のようなものの上に寝かされ、8人の男の肩で抱えあげ運ばれている。墓地に向かっているのだろうか。男達は、頭から全身黒の衣をまとっている。解説は、彼等は泣き男だと言った。肩から斜めに金色の刺繍のされたカバンを下げている。衣のザワザワという擦れる音が聞こえてきそうだ。画面を拡大して見ると、泣き男の被りものからチラリと見える唇は笑っている。全体も死者の葬列にしては、芝居じみてて滑稽だ。ここには一人の男の終わりがあるが、何故か浮いたようなざわめきもある。男を埋葬し泣き声を張り上げた後には酒盛りが始まるのだろう。黒衣は、次の死人のために丁寧に畳まれる。死は日常茶飯事だったのだろう。人はすぐ死んだのだ。そっけなく死んだ。「おはよう、我が恋人達よ」と、画面の二つの彫刻に語りかける声で私の一日が始まる。何故か惹かれる二つの作品。中年の終わりの極普通の女の私がなぜ、首のない“サモトラケのニケ”や“フィリップ・ポーの墓”の葬列が毎朝観たいのかわからない。その理由を知るためにも、一度は本物を見る少し長い旅に出たいと思っている。ニケの足元や風を受けた翼の陰、フィリップ・ポーの棺の中から、泣き男の黒衣の下から、秘密が見えてくるかもしれない。それは私の心の、私も気づかない秘密かもしれない。
Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)
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