2007年07月21日
向島のタヌキ、タヌキ寝入りか
1926年、全国で唯一タヌキの生息適地として国の天然記念物に指定された「向島」。当初、約2万頭いたとされるタヌキは、野犬の侵入や里山環境の悪化などに伴い年々減少。現在、最後の目撃情報から9年間が経過した。どこにでもいるタヌキが向島にはいないという逆転現象が起こり、市文化財保護課は「これまで何とか減少を食い止めようとさまざまな努力をしてきたが、今は手詰まり状態」と肩を落としている。
26年の指定当初、タヌキは毛皮が防寒具などに利用されるため、全国で乱獲が進み絶滅が危ぶまれていた。向島のタヌキは日本全国どこにでもいる「ホンドタヌキ」だったが、減少の一途をたどっていたタヌキを保護しようと、国が全国で唯一生息適地として向島を天然記念物に指定した。
当初は約2万頭ものタヌキがいたが、50年に問屋口・向島間に錦橋が完成し、それ以降野犬が侵入。さらに、高齢化や国の減反政策などによる休耕田の増加、山の荒廃といった里山環境の悪化、餌となる動植物の減少などにより、年々生息数が減少していった。
市では、これまで野犬の侵入を防ぐ防護フェンスの設置や木の間伐、タメフン調査、さらに子どもから大人まで参加できる「里山体験教室」を開き、カキやビワなどタヌキの餌となる木の植樹や森林内の下草刈りなどを実施。このほかにも、タヌキの出そうな場所に毎週果物を給餌したり、すみかを作るなど、環境整備に力を入れてきた。また、97年にはより多くの人にタヌキの生息地ということを知ってもらおうと、防府土木建築事務所によって錦橋のたもとにタヌキ親子のモニュメントが作られた。
しかし、これらの努力は実らず、目撃情報は98年から途絶えたままだ。市が96年から総事業費1400万円をかけて行ってきた「保護増殖事業」も3年前に打ち切られている。同課の田中晃司係長は「今でも定期的に見に行っているが、残念ながら姿は確認できない。最後にカメラでとらえたのも11年前のこと。今は打つ手がない状況」と話している。
一方、長年にわたり島の生活を見てきた向島公民館館長の上山公甫さん
(63)は「9年前には、海岸で死んでいるのを見たり、農家に実っているミカンを食べにきたりとタヌキは確かにいたが、今では見なくなった。減ったのは事実だが、全滅ということはない」ときっぱり。目撃情報はないが、逆に全くいなくなったことも確認できないという。「タヌキのおかげで小さな漁村が有名になった。これからも、“タヌキの里”としてのロマンを残していきたい」と思いを語る。
なお、文部科学省によると、天然記念物の指定は、動物、植物、地質、保護区域など多種に及び、例えば千年杉のように植物で枯れてしまえば指定はなくなるが、向島のように場所や地域であれば指定解除されることは極めて少ない。担当者は「向島の場合、タヌキが9年前から目撃されていないとしても、保護する活動が積極的に行われるなど、良い影響が残るのならば解除されることはないだろう」と話している。
Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)
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