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2012年07月11日

台所のおと

 “あきはもとから静かな台所をする女だが、この頃は
ことに静かで、ほんとうに小さい音しかたてない。(略)女房のたてる静かな音を追っていると、佐吉は自分が台所へ出て仕事をしているような気持になれる。すると慰められる”
幸田文著「台所のおと」。
 私は読んで、背中がひやりとした。私は、台所ですごい乱雑な音を立ててしまう。板前の佐吉は病気で台所のすぐの部屋に伏せっている。女房のあきが客の料理を作る。その音は静かで、慎ましやかで忍耐強いあきの性格そのまま。聞いていると、彼は幸せになれるのである。
 話の半ばにあきの前に結婚していた女のことが書いてあった。
 “我慢ならないことは、鍋にも瀬戸ものにも、捨鉢な音をたてさせることだった。いつもなにかが、欠けるなら欠けても構うもんか、という強がった声をあげさせられていた。食べるものをこしらえる音、ではなかった。”
 私は今度は、本を置いてしばらく呆然としていた。私は、台所で食べものをこしらえる音ではない音をさせている。瀬戸ものに悲鳴をあげさせている。しばらくして佐吉はこの女の無神経さに耐えられずに別れる。
 人が台所でたてる音には、その人の心根が表れる。恐ろしいものだ。


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Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)おんなの目
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