サンデー山口

　いやー、こんな所にいたの？　やっと会えたわね。
探していたハンカチが米びつの中から出てきた。何故、ここに？なんて愚問は発しない。そんなことは考えてもわからないからである。無駄である。見つかったことをただ喜べばいいのだ。年を重ねれば、忘れることは自然なことだ。最後には、自分が何者であるかも忘れて、死の恐怖も忘れて旅立てる輝くような日を迎えることができる。日々の物忘れはそのための練習である。
　今日は、下着がない。下着、シャツだが三枚しかない。雨や雪の日が続いたので二枚がまだ干してある。もう一枚あるはずなのにみつからない。箪笥の指定の置き場を丁寧に探したがない。これ以上探したとて無駄だ。いつか、とんでもない場所から出てくる。食器戸棚から出てくるかな。バッグの中から出てきたりして。ウフフ。どこで会えるかな。鼻歌が出てくる。今日は仕方ないから生乾きのシャツを着て、体温で乾かそう。
　箪笥の上には相手を待っているいろんな物が並んでいる。右だけの靴下二足。黒の皮手袋、左だけ。ミッキーマウスはいるがミニーマウスがいない。キングのいないトランプ。冷蔵庫から鉛筆削りが出てきて、畑からスプーン、下駄箱から眼鏡。本箱から税金の督促状。盆栽の下から口紅。もう楽しくて仕方ない。