サンデー山口

▲友人・杉孫七郎

（4日付・松前了嗣さん寄稿の続き）

洋行帰りの友人

　日が沈み、辺りが薄暗くなる頃、晋作は時々外出することがありました。
　その頃、萩城下には、友人・杉孫七郎（現・山口市大内氷上出身）が帰郷していました。
　彼は、1861（文久元）年から翌年にかけ、藩命により、幕府の遣欧使節団の一員として欧州諸国を訪問しています。
　この時、晋作も同行する予定でしたが、1名の渡航しか許されず、涙を飲んだのでした。
　「杉さん、エゲレスはどうじゃったかね」
　「おお、わしゃあ、たまげたいや。あそこにゃあ、火車（汽車）っちゅうが走りよるんじゃ。黒い煙を吐いてのう。それも、モグラみたいに地面の下をど。まあ、あれらあと戦になったら、わしらあは絶対に負けるいや」
　「それ。僕も上海に行った時にそう思うた。大人と子供が喧嘩をするようなもんじゃ」
　翌日、今度は孫七郎が晋作の元を訪れます。
　「のう、お前もまた藩の役人に戻ってみんか…」
　すると晋作は、笑みを浮かべ、窓から見える山に向かい指をさしました。
　「は？　晋作、どうしたんかぁ。あぁ、あの山みたいにお前の心も動かんど。そういうことかあ。こりゃあまいったのう」
　静かな午後の草庵に、ふたりの笑い声がこだましていました。
（続く。次回は18日付に掲載します）