サンデー山口

　私は買い物下手であるらしい。
　友人や知り合いから買い物を頼まれると、依頼の品物を買いに走り、手渡す。その時、相手の顔に影がよぎる。あらっ、という陰り。私はうろたえる。どうも依頼主のイメージと違う物を買ってきたらしい。それでも、友人や知り合いは「ありがとう」と大人の対応をしてくれる。それが一度や二度ではない。
　オレンジ色の袋に詰められた10個ばかりの蜜柑は、必ず1個はつぶれている。私はしっかり見定めないので気づかない。友人は袋を掲げると一発で指摘する。少し眉をひそめて影を走らせる。五秒の間があり「ありがとう」と言う。
　林檎を頼まれた時は気をつけた。私だって良い品物を選ぶことができると知らしめなければならない。
　2個買うので、バラ売りの中から探した。腐った箇所はないか？　
　どの林檎も個性的な姿をしている。丸みが歪な林檎は、林檎畑で隣の林檎に押されて凹んでしまったのかもしれない。なんと情けのある林檎なんだろう。これを買おう。
　2ミリの黒点が三つある林檎が目についた。位置が絶妙で正面から見ると人の顔に見える。二つのクリッとした目。小さな口。これを買おう。
　意気揚々として林檎を差し出す。友人の顔は見ない。