サンデー山口

　夕方、丘の上の友人宅に届け物を持っていった。約100メートルのちょっと急な坂道を登ると眼下に温泉街の明るい灯が見える。湯煙は見えない。一番鮮やかなネオンはカラオケ店。上手な歌とは、しっかりとした発声でそれでいて艶っぽく歌うことだ、とその道の達人が言っていた。国道には車の列。近頃は車が増えた。車のライトの連なりで道が白い帯のように延びている。
　街に飛び込みたくなった。この丘から助走をつけて手を広げて飛ぶと、街の上を飛べるような気がする。飛んでみようか。飛び込めば、物語のように翼が突然生えてくるかもしれない。そして、街の上をスイスイ…。
　帰りの下りの坂道を飛んだ。
両手を大きく広げて、スキーのジャンプ競技の選手のように前傾姿勢を取る。走る。走る。坂道を一気に下る。翼が生えてこなかったので、そのまま走る。ジャンパーの中に風が入り込み、膨らんでいく。
　右手を上げて、左旋回。カラオケ店のネオンに当たりそうになる。左手を上げて、右旋回。夕餉の支度のアパートに接近。ああ、なんて気持ちいいんでしょう。両手を広げて湯の街の上を鳥の気分。
　走る。走る。坂を下り終えると膝がガクガク震える。空に星が一つ二つ輝きだす。ああ、面白かった！　明日も飛ぼうかしら？