2004年02月14日
盲目の捨て犬・プリン

4月1日から施行される「山口市の生活環境の保全に関する条例」に、犬・猫の飼い方やふん放置規制の条文が盛り込まれた。空前のペットブームの陰で、問われる飼い主の自覚。主人に見放され、殺処分される犬・猫も後を絶たない そんな街の片隅で、新たな飼い主の支えとなり、人々に癒やしを与えている一匹の盲目犬がいる。
電動シニアカーの足元にちょこんと乗り、飼い主の父(70)と、日課のお散歩に出かける盲目のシーズー犬・プリン(推定2歳)。プリンが市内に住む会社員の女性・Tさん(42)のもとにやってきたのは、今から1年半前のことだった。
宇部市の動物愛護団体「ボイス オブ アニマルズ」が開いている譲渡会会場。緑内障に冒され左目が破裂、右目も失明状態、何とも言えない異臭を漂わせたシーズー犬が、年配の男性に連れられてきた。「捨てられていたから…」。放浪する無惨な姿の子犬を、この男性は放っておけなかったのだろう。盲目のシーズー犬はボイスに保護され、破裂した眼球の摘出手術を受けた。
回復後さっそく里親探しが始まったが、障害のためか、なかなかもらい手は見つからない。一時保護の状態で、毎日が過ぎてゆく。そんな時、ボイスの活動を手伝っているTさんの目に留まった。譲渡会にやってきた時のプリンの写真を見せてもらったTさん。「きれいにトリミングされて…。以前はずいぶんかわいがられていただろうに。(盲目でうろついて)よく事故に遭わなかったね。おまえは運がいいよ」とささやいた。
Tさんは父と母、数年前にもらってきた雑種犬2匹と暮らしていた。動物が好きで、子どもの頃から常に犬を飼ってきた。それも、拾うか、もらうかのどちらか。Tさんに動物を”買う”という認識はない。
おとなしい性格で人慣れしているプリンは、たちまち家族の人気者になった。定期的に右目の眼圧を計りに通院、血圧を下げる薬が手放せないが、誰もそれを苦にしない。プリンは今や大事な家族なのだ。
リハビリの支えに
1年ほど前、Tさんの父が脳梗塞で倒れた。後遺症を抱え、退院後は自宅静養。突然の病に、気丈だった父もさすがにふさぎ込んでしまった。そんな父の心と体の支えになったのは、娘のようにかわいがっていたプリンだった。体が不自由とはいえ、プリンの世話をしないわけにはいかない。トイレや食事の世話など、その一つひとつの動作は、ちょうど良いリハビリになっていた。父は、日増しに元気を取り戻していった。
ある日、父はプリンと散歩に行くと言い出した。「障害者が障害犬を連れて出かけるなんて」と心配するTさんをよそに、父とプリンは毎日のように近所を散策。父が外に出ると、プリンもうれしそうにシニアカーの足元に飛び乗る。近所ではちょっとしたアイドル的存在だ。「プリンが家族みんなを明るくしてくれた。ありがとう」とTさんはほほ笑む。
さらに、おとなしいプリンは、萩市内の養護老人施設で行われているセラピー犬の「ふれあい訪問」のお手伝いもしている。訪問日を楽しみにしているお年寄りたちは、犬を包み込むように抱き上げると、しばらくの間離そうとしない。犬の温かなぬくもりは、お年寄りたちの心をやさしく癒やす。すっかりプリンもおなじみの顔になった。
不幸な命を救いたい
家族の愛に包まれ、幸せな日々を送るプリン。障害があっても、人々に安らぎや元気を届けてくれている。しかし、もし男性が保護しなかったら、ボイスのような団体がなかったら…。捨て犬のプリンは、とっくに殺処分されていたかもしれない。
Tさんはこの春から、出会いの場となる譲渡会を市内でも定期的に開き、処分されるペットを何とか減らしたい、援助グループを立ち上げたいと考えている。「一人の意識が変われば、また一つ、小さな命が救われるかもしれません」とTさん。
※注…飼い主の住所等が特定されると自宅に捨て犬などされる可能性があるため、実名は控えさせていただきます。
Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)
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