2004年06月09日
最後の鍛冶職人 楳本さん

先月30日、「鍛冶屋」と「道具」をテーマにした歴史講座が県立山口博物館で開かれた。講師を務めたのは、宮島町で「梅本鉄工所」を営む楳本義明さん(77)。かたくななまでに手造りにこだわる昔気質の鍛冶職人だ。楳本さんは、使い手が一番使いやすい“本物の道具”しかつくらない。修理しながら何十年も使い続けてもらうためだ。いつも変わらぬその姿勢は、現代人が失いつつある「物を大切にする心」を今に伝えてくれている。
真っ赤に焼けた鉄を炉から引き出し、すばやく鎚で打ち付ける。「カンカン、カンカン」と、仕事場に響き渡る、小気味のいい乾いた音。かつて日本中のいたるところで見られた光景は、今ではめったにお目にかかれない貴重なものとなった。生活に欠かせない道具や農具の製造、加工、修理を一手に引き受ける鍛冶は、地域になくてはならない職人として大変重宝がられていた。ところが戦後、工業の発達で機械化が進み、道具も大量生産方式に。市内の鍛冶屋も次々に姿を消し、現在は楳本さんを含めわずか2軒となった。いずれも後継者はなく、今の代で幕を閉じるという。
楳本さんは親子3代続く鍛冶屋の3代目。刀鍛冶だった祖父の伝統の技を受け継ぎ、包丁、くわ、かまなど、様々な鉄製道具の受注生産を行っている。鉄の特性を知り尽くす楳本さんは、軟鉄でできた地鉄と硬い鋼という相反する性質の鉄を熟練の技で接合し、一つの製品に仕上げる。熟練された職人だけがなせる技だ。特に包丁は、折れず曲がらず、よく切れると評判で、県外からも注文が舞い込む。1本ずつ丹念に鍛え上げる打刃物の切れ味と耐久性は、ステンレスを型で打ち抜く大量生産の包丁とは比べものにならない。1本6千円の包丁は、20年、30年と使える一生物だ。
「うちに使い捨ての道具なんてない。修理しながら長く大事に使うんだ。昔はそれが当たり前だった」と話す楳本さん。常に使う人の側に立ち、最良の仕事をする。客が望む道具なら何でもつくるし、くわ一つとっても、使う人や土地に合わせて柄の長さや刃先の形を変えたりする。修理を頼まれれば、既製品でもすぐに悪い個所を見抜き、あっという間に直してしまう。長く使えるものを提供するのだからもうけは少ないが、「客に満足してもらうことが一番の喜び。こだわるからこそ仕事はおもしろい」という。楳本さんの包丁を長年使い続けているという主婦(62)は「私の手によくなじむんです。どこを探したって、この代わりは見つかりません」と話す。「何でも店で簡単に買えるし、壊れても、直すより安く新品が手に入る時代。その一方で、環境破壊だ資源が足りないだのと騒いでいる。おかしな世の中になったもんだよ」と楳本さん。
Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)
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