2006年10月01日
障害を"使命"に変えた主婦 加茂さんの勇気ある活動

聴覚と平衡感覚、外見からは分からない障害を持つ小郡の主婦が、今年1月に旧県会議事堂で開かれた障害者就労支援フォーラムで初めて壇上に立ち、自身がたどった経験を公に語った。加茂由喜枝さん(49)はこの講演を契機に、障害者に対する独自の支援を本格化。障害を「使命」と言い切る彼女の前向きな生き方は、多くの人々に勇気と思いやりの心を芽生えさせている。今月14日(土)には下関市主催の講演会に登壇、聴覚障害者向けの全国誌にも近々取り上げられる。
生まれつき左耳が聞こえず、右耳も高度難聴。幼稚園のころに自身のハンディを知ったものの友達に嫌われるのを恐れ、聞こえるふりをして障害を隠した。「無視された」「約束を破った」といじめに遭い、不登校や非行に走った小・中学生時代。「いつか音を失う」という医師の言葉にも絶望した。中学を出て就職したが、人とのコミュニケーションが取れず誤解やミスが重なり、職を転々。家に引きこもった時期もあったが、結婚、出産を経て思い直し、社会復帰を決意した。32歳で普通運転免許、その2年後には「平衡機能障害では不可能」と医師に言われた大型自動車免許を取得。初めて自分に自信が持てた瞬間だった。以後の就職活動では自らの障害を隠さず伝えるようになり、理解ある職場に巡り会うことができた。
苦難の道を歩みながらも社会的自立を果たし、「自分に負けないために」と勇気を振り絞って人前に立った1月のフォーラムでは、予想以上の反響に戸惑いながらも、“見えない障害”に悩む人、家に引きこもる障害者の多さ、障害児を持つ親の不安、将来の難聴や中途失聴を案じる健常者の声に出会い、「求められている」ことを実感した。次々に現れる相談者との対話を続けながら、この春からはトヨタ部品山口共販でのルート配送の仕事を終えた後に、小郡板金自工で事故車の引き取りを手伝うようになった。コミュニケーションが取れないために事故の状況説明ができなかったり、トラブルに巻き込まれる障害者が多いからだ。当事者の心情を理解した上での対処は「自分だからこそできること」の一つ。さらに現在、山口市中途失聴・難聴者協会副会長、きらめき21(市男女共同参画ネットワーク)の会員としても活動している。
7月には、夫が高血圧で突然倒れるというショックな出来事があった。医師の適切な治療のおかげで現在は回復に向かっているが、不安にさいなまれながら改めて考えさせられたのが、障害を持つ女性の自立の必要性と社会の受け入れ態勢の整備。人権をテーマにした下関市での講演、?全日本難聴者・中途失聴者団体連合会発行の書籍「難聴者の明日」への寄稿の依頼があった時、「障害を持つ可能性は誰にでもあるし、何事も伝えなければ分かってもらえない。これは自分の使命」と迷わず引き受けた。
「できるだけ多くの人と出会い、話したい。15日の県聴覚障害者情報センターの祭りにも参加するので、気軽に声をかけて下さい」と加茂さん。なお、14日の講演は午後2時から、下関市立勝山公民館で開かれる。
Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)
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