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2003年05月02日

棺の花

 先日Tさんの葬儀があった。Tさんは、98歳で大往生だった。というのも、前日まで畑の草取りをし、数時間前までおいしくみそ汁をすすり、家人がお風呂の支度ができたと知らせに部屋に入ったら、座布団を枕に、こときれていたという。これ以上の幸せな死はないではないか。葬儀場では涙より、あっちこっちでTさんの大往生をうらやむ声が聞かれた。
 私は、4人の友人と出席した。Tさんとは詩の仲間で、30年近く一緒だった。私とTさんは40歳近く年が離れているので、詩のこと人生のこと、いろんなことを教えてもらった。一番感心していることは、長い付き合いの間、大げさでなく一度もグチというものを聞いたことがない。なにを話しても明るかった。グチという閉塞感がなかった。かといって、諦めていたわけでもない。達観とも違う。人柄なのだ。私は、そうなりたいと思ったが、習うことはできなかった。
 最後のお別れに棺の中に花を入れる列に並んだ。横のAさんが黄色の菊を持ちながら「ねえ、あなたの時は、私が黄色の菊を入れてあげるわね」と言った。私はすかさず「年から言っても、Aさんの方が先ですよ。何色の菊がいいですか」と言った。Aさんは「そうね、こんな黄色がいいわ」と言った。それを聞いていたHさんが「私はピンク」と言った。Kさんが「私は…」と言って泣き崩れた。私は彼女の背を抱えながら「一番奇麗な花を入れてあげるわよ。あなたに似合う花を入れてあげる」と言った。


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Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)おんなの目
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