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2003年10月15日

旅へ 1

 友人のU子さんが、体調がすぐれない毎日が続くので健康診査を受けた。すると、胃に腫瘍がみつかった。2日入院して精密検査をした結果、経過観察ということになった。無罪放免ではない。55歳の彼女は、2年前に夫を大腸ガンで亡くしたばかりだった。
 U子さんが、夫を亡くして思う一番の後悔は、二人で旅行に行かなかったことだという。自営業だったので、二人して出かけると店を閉めなくてはいけない。いつかきっと、二人で出かけようとパンフレットを集め、眺めては話していた。亡くなった夫の一番行きたかったのは歴史のある中国。中でも北京。宇宙からも見えるという万里の長城を歩きたいということだった。
 腫瘍が見つかった瞬間、U子さんは私に電話してきた。「北京に行こうよ」。私は、すぐにその話に乗った。誘われた時、列車や飛行機に乗ってビューンと知らない町に行ってみたかった。私とU子さんは同じ年だ。
 北京のパンフレットを見ながらU子さんが、「福岡からなら2時間ちょっとなのに…どうして彼が生きている時、思い切らなかったのかしら」と天を仰いだ。それから、彼女が「万里の長城と胡同(フートン)に行こう」と言った。「フートン?」。「ガイドブックに2年後には消えてしまう町と書いてあるわ。消えてしまうものは見ておかないと後悔するわ。2度と会えないから」
 私達は、小振りのボストンバックに荷物を詰めて3泊4日の旅に出発した。もちろんU子さんは、夫の写真を胸のペンダントにしのばせて。


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Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)おんなの目
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