サンデー山口

　よほど意志が強くなければ机の周りに好きな物を置くのは、よくありません。
　私は、息子の古い机を譲り受けて使っています。私がその机に座る時は、なにかしなければならない事がある時です。しなければならないという押し付けられたようなものは、したくないのが相場です。どうしても書かなければならない礼状、断りの手紙、たまった新聞の切り抜きの整理、先輩から薦められた面白くない本を読む時など…。
　したくないので、机の周りを見回して、したくなるのを待つ。馬力がでてくるのを待つ。気力があふれてくるかもしれないと思い、机の周りを眺める。
　そこには、私が吟味を重ねた好きな物が並んでいる。私の興味はそれに集中してしまう。危ないことになる。
　親友の近影に向かって「しばらく会っていないけれど、元気？　ねぇ、中学のマラソン大会の時、折り返し地点まで行かずにズルして引き返したわね…」。ゴッホのホーヘフェーンの農家という絵に「単なる農家のある風景を描いているのに詩情があふれていて、その上力強い。すごいねぇー」。ガレ工房で作られた花瓶を手に取って、その丸みと深いルリ色を光にかざす。時が流れていく。壁のカレンダーに目を移し、記入してある楽しい予定（食べることや旅行などの遊ぶこと）だけを確認する。フフフ…時は、静かに過ぎていく。
　一向にしなければならない事に気が向かない。だから、机の周りに好きな物を置いてはいけません。机の周りは、世捨て人のようにさっぱりとしておくことです。