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2004年09月15日

真実の絵 3

 「真実と事実は違うんだよ」。私は、ゆっくりと言った。「おじいちゃん、二枚の絵、同じ人が描いたのよね。なのに何故違うの。波止場の絵は、事実で真実ではないの」。やっと正子は入り口まで到達した。「波止場の絵は、Mさんが40歳の時に描いたんだ。黄色い犬は、84歳。波止場の犬の時には、まだMさんは深い真実には達していなかった、と私は考えているんだ。40歳ではまだ見ることができないものがあるのだと思う。年とってからしか見えないものがあるんだ、きっと」
 正子は、わかったような顔をして頷いた。幼い正子にどこまで理解できただろうか。私だって、今でもわからない。この度のM氏の個展を見て、絵画とはなにか、頭の中がすっきり整理されたような気がしている。我流の解釈だがわかったような気になっている。画廊を出ると、もう秋の風が吹いていた。あの暑かった夏がなかったかのように、風は涼しかった。正子は、縞のワンピースの裾を揺らしながら、スキップをしている。
 “芸術家がいままでの自分自身をも切りすて、のり越えて、おそろしい未知の世界に、おのれを賭けていった成果なのです。そういう作品を鑑賞する場合は、こちらも作者と同じように、とどまっていないで駆け出さなければいけません。だが、芸術家のほうは、すでにずっとさきに行ってしまっているわけです。追っかけなければならない。どうして、こういうものを描いたんだろう|どうして”(「今日の芸術」岡本太郎)
 私には、先は見えない。いずれ正子に教えてもらうことになるだろう。


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Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)おんなの目
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