2006年11月01日
腹立たしい日
A市に住むFさんの90歳になる父親が突然脳溢血で倒れた。しばらく入院して退院。その後在宅で介護することになった。どうしても彼女一人では介護できないので、介護保険のサービスを市に申し出た。2週間後に福祉課の認定する人が来た。以下はその時のことを友人から聞いた話である。
福祉課から来た若い女性職員は、達磨のように座いすで動かない友人の父親に、マニュアルにのっとった無神経としか考えられないような質問をし、最後近くになって「おじいちゃん、お尻は自分でふけますか」と聞いた。すると突然、父親は曲がった手と足をくねくねと動かし、顔に血をのぼらせ、杖をたぐり寄せ立ったという。それから、杖にすがりつき揺れながら、卒然と「自分でできます。ご迷惑をおかけします」と言った。アー ウーという吃音の連続でかろうじて聞き取れたと言った。彼女は立ち上がった父親を見て「立てるんですね。おじいちゃん」と言い、書類のある個所に丸をつけた。それを見ながらFさんは、なんということ、父はここ一カ月立ったことなどなかったのに、と心の中でつぶやいた。迷惑をかけたくない、ということで気力を振り絞ったのだろう。
介護認定の質問は40分にもおよび、足の関節が曲がるかどうか触り、オシメは自分で脱げるか、はけるか。今の季節を問うた。父親は秋と冬を間違えた。疲れ苦悩する父親を見ながら、尊厳という言葉を何度も心の中で反芻した。なにもかもが腹立たしい日だった、とFさんは言った。
福祉課から来た若い女性職員は、達磨のように座いすで動かない友人の父親に、マニュアルにのっとった無神経としか考えられないような質問をし、最後近くになって「おじいちゃん、お尻は自分でふけますか」と聞いた。すると突然、父親は曲がった手と足をくねくねと動かし、顔に血をのぼらせ、杖をたぐり寄せ立ったという。それから、杖にすがりつき揺れながら、卒然と「自分でできます。ご迷惑をおかけします」と言った。アー ウーという吃音の連続でかろうじて聞き取れたと言った。彼女は立ち上がった父親を見て「立てるんですね。おじいちゃん」と言い、書類のある個所に丸をつけた。それを見ながらFさんは、なんということ、父はここ一カ月立ったことなどなかったのに、と心の中でつぶやいた。迷惑をかけたくない、ということで気力を振り絞ったのだろう。
介護認定の質問は40分にもおよび、足の関節が曲がるかどうか触り、オシメは自分で脱げるか、はけるか。今の季節を問うた。父親は秋と冬を間違えた。疲れ苦悩する父親を見ながら、尊厳という言葉を何度も心の中で反芻した。なにもかもが腹立たしい日だった、とFさんは言った。
Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)
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