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2012年04月14日

愛でてやる

 「私、アマゾネスになるのよ」と雪の積もった夜、里実さんが電話してきた。「アマゾネス?」「そうよ。あのギリシャ神話に出てくる強い女戦士」。「なんのこと、わかるように言ってよ」。「明日、乳がんの手術をするのよ」。
 古代ギリシャ神話に出てくるアマゾネス伝説。黒海近くに住んでいたといわれる最強の女戦士の集団。彼女達は武器として弓を引くので、その邪魔にならないように、幼いうちに片方の乳房を切り取っていた。
 「私ね、今自分の身体を愛でてやってるのよ」と彼女はしゃべり始めた。
「黄色の柚子を浮かべた風呂に入った時、ポーンと柚子を蹴るのよ、そうするとピーンと足が伸びるでしょ。その足に言うの。綺麗な足だこと、ステキよ、って。腕も掌も指も、世界一綺麗、って擦りながら誉めてやるの。湯が揺れて、柚子が乳房に寄ってきて、柚子が言うのよ、大丈夫だから、って。私も乳房に言うの。真っ白の形の良い乳房だこと、皆に見せたいくらいね、大丈夫よ、って。風呂で長い時間、全身を愛でてやるの」。里美さんは電話の向こうから、歌うように語った。
 「こんなに美しい乳房の下にしこりが出来ていて崩れ始めている、なんて信じられないの。大丈夫よね」。「絶対大丈夫よ」。私は声を張り上げた。


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Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)おんなの目
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