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店長情報

2013年04月03日

春になると

 「別れる力(伊集院静)」を本屋で立ち読みしていたら、Wさんが肩を叩いた。「私、別れ下手なのよ」と唐突に言った。「私ね、死んだ人に会うのよ」とWさんが声を潜めて言った。午後の店内には客はいなかった。なのにWさんは声を潜め続けてしゃべった。
 「昨日、路地で大助に会ったのよ」とW。「大助って死んだ猫よね」と私。「そうなのよ、柄がそっくりなの」「…」「大助がよみがえったのよ」。Wさんの目には涙が滲んでいる。「なに言ってるのよ、庭に埋めるのを手伝ったじゃないの」と私はのけぞる。
 「あのね、一週間前に、バス停の横の店で祖母が桜餅買ってたのよ」とW。「それって、5年前に101歳で亡くなられたタマヨ婆さんのこと」と私。「そう、絣のもんぺはいて、こし餡の団子も買ってたのよ。あれは祖母に間違いない。鼻が右側に捩れていたしね」「…」「その前には、中学校の時に自転車事故で死んだAちゃんにも会ったのよ」と涙声のW。「Aちゃん、自転車乗ってた?」と私。「うん、乗っていた」と、70歳のW。今年の冬が特別寒かったので、春になると生きているものも浮かれるし、死んでいるもの達も楽しくなって浮かれ出てくる。なんの不思議もない。ただ、話していると思い出して涙が止まらない。Wさんと私は別れる力不足の別れ下手だ。


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Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)おんなの目
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