サンデー山口

　長雨が続いた日、自転車しか移動手段のない私は、困った。歩くには遠過ぎる所、バス路線から外れている所等に行く用事ができた時には、困った。
　雨合羽を買った。ショッキングピンクの鮮やかな、上着とズボンに分かれた機能的なものを買った。今まで透明な薄い上着だけしか持っていなかったので、雨の日は自転車に乗らなかった。雨の日、どうしても外出しなければならないときは、タクシーを利用していた。代金を払う時、我慢している本が頭に浮かんだ。このタクシー代で、あの本が手に入る、そう思うようになった。アベノミクス効果は、資産のない私には関係ない。友人は、高値の株を売り払い、車を買った。
　ショッキングピンクの雨合羽で強い雨の中を走ると、背中に当たる雨が身体のつぼを刺激してくれて最高だ。頭の上にも、リズミカルに落ちてくる。血液の循環が良くなったのか、忘れていた長いスペルの英単語が突然思い出されたりして驚いた。
　ふしの川の自転車道で止まってしばらく川を見ていた。雨が濁った川に突き刺さる。川幅がいつもの倍になっている。白波が幾つも幾つも立ち、馴染みの白鷺がいない。草も木もなにもかもが風下を向き、アパートの窓はみんな閉まって誰も歩いていない。爆発する景色を雨合羽を着て独り占めだ。ああ、美しい。