サンデー山口

実際の紙面はコチラ（公開期間は発行から1カ月間です）

　“黒豚モモ一口カツ用（国産）”200グラムを解凍し、トンカツにする為に小麦粉をつけようと持ち上げたら、角の肉が2ミリばかりプラスチックトレーにひっついて残った。そのくらいの肉はどうでもいい、と廃棄しようとした。
　まてよ、2ミリの肉は黒豚のモモだったものだ。モモは腿。モモとカタカナで表記すると肉ではなく、なにか南洋の美しい果物のような気がする。モモは腿で、黒豚の隆々たる腿の肉なのだ。身体を支え、豚舎で寝転び、走った肉だ。トレーの2ミリの肉を指でつまみ食べた。生肉を食べた。冷たくって柔らかで甘かった。
　豚ってなんだ？　豚は誰でも見たことがあるだろう。絵本に登場する人気もの。小学生の時太っていた私のあだなは、ずばりブタ。
　食用豚の体脂肪率は14％から18％。現在70歳の私世代の体脂肪率は標準で23％から36％。豚の知能は高く、犬と同等かそれ以上で、自分の名前も認知する。豚は類人猿以上に体重や皮膚の状態、内臓の大きさ等が人間に近い。
　パソコンを操作してネットから情報を得る。機械が相手だから、心通わす笑い声はない。黙々とキーをたたくだけ。トンカツも生身の豚に触ることなく出来上がる。カラリと揚がる。見えないから祈らない。
　なんか変だよね。何もかも遠い。