サンデー山口

実際の紙面はコチラ（公開期間は発行から1カ月間です）
　
　五歳の頃、動物園の近くに住んでいました。二階から園の中が見えました。
　背高ノッポのキリンが一番良く見えました。ベランダのテスリから身を乗り出してじっと見ていました。キリンが手の先に届きそうでした。
　広場にはクジャクが歩いていました。時おり猿のような鳴き声をあげて羽を広げます。その異様な声にびっくりし、持っていたアイスキャンデーを落としてしまいました。
　夜の動物園は真っ暗ですが、昼間より活発に空気が動くのです。濃い獣の臭いがします。私が夜独りで部屋にいるとキリンとクジャクが来ます。月曜日と木曜日に来ました。
　キリンは、自分のこの網目模様が今流行なのだ、と言います。網目模様の中にカメレオンの子供が隠れていました。まだ変身が下手で模様がぐちゃぐちゃになっているのです。―五歳なの？と私が聞くと頷きます。クジャクも来て羽を大きく広げます。羽の先はプルプル震えています。私が怖がるので鳴きません。いつも二本の羽をくれます。いつか羽が全部なくなってしまうのではないかと心配で泣きました。
　今、私は七十歳で、動物園から遠くに住んでいますので、キリンもクジャクも来ません。
　良い匂いのする別なものが来ます。