サンデー山口

実際の紙面はコチラ（公開期間は発行から1カ月間です）

　私は新緑の五月が好き。木々から柔らかい小さな葉が出て来ると食べたくなるほど愛しい。葉でほっぺたを撫でる。冷たくてツルツルして気持ちいい。良い匂いもする。力が湧いて来る。
　うれしさは春のひかりを掌に掬い
　　　　　　　野見山朱鳥
　凛とした気持ち良い風に誘われて木々の間を歩いていると、毛虫のまき散らす毛にかぶれる。なんか知らない小さな虫にも刺される。足や手が腫れる。好きなのにツレナイ五月。
　蜂若し洗ひ髪して通るとき
　　　　　　　野沢節子
　そうなんです。蜂、蜂は怖いですね。あのブーンって羽音を聞くと身がすくみます。公園の藤棚の紫の花が満開になり甘い匂いがしてきますと、蜂がどこからかやってきます。藤棚の中に入り込むのは危険です。
　五月が好き。田起こしが始まると土の良い香りがしてくる。長い冬を耐えて来た土の匂い。さあ、働きましょう、孕みましょう、と土の声が聞こえる。サギが掘り起こされて表に出て来た虫を、ちょこちょこ歩きながら真剣についばむのは可愛い。
　抱きしむる力に抱き返されたきを浅くながるる五月の水は　染野太朗　公園を出てゆく野球少年の誰ひとりぼくでなしこの五月も　染野太朗
五月は不思議な風の吹く月でもあるのです。