サンデー山口

　

連日にぎわっている大ナポレオン展会場を歩いていると、いつも目にとまる作品がある。豪華で見ごたえある作品もあるなかで、なぜか〈エジプト誌〉の版画に見入ってしまう。
　単に私の好みの問題かもしれない。が、しかし、それにしても、である。
　極小のディテールまで精密に表現されオベリスクや円柱の図面と、そこに書き込まれたスケールを示す微細な数字。解剖学的に詳細に調べられたカニの各部位の形態図と、参照しやすいようにつけられた微細なアルファベット文字。
　小さなかたちや数字・文字の向こうにも何かが見えてきそうで、息をじっとつめたまま瞬きもできなくなってしまう。　
　写真も映画もない時代。見たものを記録に残す手段として、大いに磨かれ洗練されてきた版画技法としてのエッチング。記録に対するなにか執念のような強い意志。これら一枚一枚のなかに、そんなものをひしひしと感じるのは私だけだろうか。
県立美術館学芸課長 斎藤　郁夫