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2003年03月09日

札の辻・21

 所用で上京したので、新宿三越のギャラリーで開催中の萩焼大和努茶陶展を見た。
 新鋭作家の東都初登場とあって、東京在住県人の顔も多く、並べられた約80点の作品は、壺や花器も若い感覚と力がうまく調和した期待通りの創作で、会場には明るい雰囲気があった。
 注目したのは粉引炎彩とした壺と、やはり粉引炎彩で6面のひねりを見せる花器で、どちらも高さ、奥行それぞれに約40センチ、経41センチに及ぶ大型作品は、萩焼特有の陶彩を、美しい線によって浮き彫りにし、若さの溢れる量感が伝わってきた。
 茶碗はどれも落ち着きのある色をうまく出していたが、少し大胆に大ぶりなものに挑戦しても良いのでは、と思ったりした。陶額が素晴らしかった。今回の各作品の基調色となっている薄黄茶の陶板を、流れるような曲線でまとめた構図は、画家東郷青児のデッサンを連想し、努氏は父君の画才を継承していると感じた。
 目を引かされたのは水指のひとつである。竪縞模様の江戸染を思い出した。江戸中期、経済的実力を備えた町方衆は、縞模様に強い美意識を持った。大名縞、格子縞など幾条もの直線による幾何学的模様を江戸好みとし、忠臣蔵で与一兵衛が大切に持っていたのも「縞の財布」だった。江戸の粋にも通じる水指には、萩焼の新しさが匂う。
 会場の旧友たちと別れ、久しぶりに神田まで足を伸ばし、「薮」のソバで遅い昼食をとる。
 ねりミソを手土産に店を出るとき、姐さんたちの声は「有り難うございます」でなく「……存じます」だった。 (鱧)


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Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)札の辻
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