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2016年06月25日

札の辻・21

実際の紙面はコチラ(公開期間は発行から1カ月間です)

 私が幼少期を過ごしたのは、海からほど遠い山里であった。
 週に二度ほど、下松や櫛ケ浜から魚屋が自転車で魚を売りに来た。
 庭先に自転車のブレーキの音がすると、走って行きわくわくしながら背伸びをしながら木箱の中をのぞいたりしたものである。
 料理をするのは、当時教師の職で多忙だった母に代わって祖母だった。
 明治四年生まれの祖母は料理上手で、田舎料理ではあるが食卓には様々な料理が並んだ。
 酒をたしなむ祖父のために、時季になると、旬のアナゴを買い求め、蒸して白焼で出してくれたのが、なんともうまかったことが思い出される。
 私にとっては、おふくろの味ならぬ祖母の味であった。
 旧制中学に進学し、徳山の大叔父宅に住むことになると、住居の隣が魚屋で、新鮮な瀬戸内海の魚を毎日のように食べることができた。
 魚屋のおじさんが手際よくさばいた刺身などが届けられ、海に憧れ育った魚好きの少年にとってこの上ない環境だった。
 大叔父が食通だったこともあり、山里育ちの身にとっては、第二の味覚の形成時期となったことは確かである。
 先日、家人がアナゴどんぶりとアナゴ寿司を買い求めてきた。
 食べていると、魚売りのおじさんの、自転車のブレーキの音が聞こえたような気がした。(鱧)


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Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)札の辻
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