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2004年05月02日

札の辻・21

 新緑に包まれた県立美術館に香月泰男展を観る。75年の遺作展、81年の没後7周年展に次いでの開催となるが、”香月泰男のオモチャ”を含めて規模も内容も今回がいちばん充実していた。
 香月泰男の代名詞ともなっているシベリアシリーズの作品は、いずれも戦争の苛酷さと、人間の命の極限を描いて感動が脈うつ。その中で結婚後間もない妻と子の写真をはだ身離さず持っていたことを描いた作品「護」は、構図も色もシリーズの他の作品とは異なって、「愛」を感じた。
 70年に文藝春秋社から出版された随想「私のシベリヤ」の中に次のごとき記述がある。
 「私の家は代々毛利藩の医者だったが、親類の中に雪舟の流れをくむ雲谷派の末流がいて、その素描が家に多く残る。私は小さいときから目にしてきた」と。
 山口県出身の画家小野具定氏はいう。
 「香月芸術の主体であるシベリアシリーズのモノクロームは、色彩を捨てた白と黒による水墨画調である。ひと口に水墨といっても現代の水墨と室町期の雪舟のそれとは違う。生前香月さんが俺は雪舟でゆくと言ったことをおぼえている」と。
 「久原山」など三隅町の風景を描いた画には香月さんのふるさと思考が見えてくる。63年に朝日新聞連載の新人国記(山口)に香月挿画がある。
 ザビエル記念聖堂、秋芳洞、錦帯橋、八代の鶴など20点で、的確なデッサンと洗練された色調が冴えていた。あの原画が見たい。
 力作の中で目を惹きつけたのは「彼岸花」である。香月調の赤と黒に魅せられた。(鱧)


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Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)札の辻
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