2004年05月16日
札の辻・21
ことしの大型連休はどこへも出かけなかった。
それでも3日の雨の日に、中園町の情報芸術センターにあるコミュニティシネマ山口で、往年の名画小津安二郎の「東京物語」を観た。
若い頃、昭和28年に神田松竹で封切を観て以来の小津作品だが、出演者は勿論、千住の煙突や路面電車が走っている東京の風景がなつかしい。
映画は尾道に住む笠智衆・東山千栄子の老夫婦が、東京で暮らす子供たちを訪ねる物語である。
ゆるやかに水の流れるような自然さで、人生の切実な現象を小津流に展開するが、現代感覚ではいささかテンポが悠然としている感じになる。
尾道は坂の多い港町で独特の風情があり、映画には小津作品だけでなく、尾道出身の大林宣彦の作品にも登場した。
老夫婦の住む家の居間からも、石佛のある坂道にタコの生干しが吊るされているのが見えた。
老夫婦は東京見物を決めて上京する。
子供は医者の長男、美容院を営む長女、戦死した次男の妻たちで、山村聡、三宅邦子、杉村春子、中村伸郎、原節子、香川京子といった面々が登場するが、原と香川を除いてみんな今は亡い。
老夫婦にとって戦後間もない頃の都会生活は、余裕なく回転する歯車のようで、子供たちのくらしもあわただしく乾燥したものに映ったろう。そして現代社会の中では親子の関係が、子供の独立により益々疎遠となってゆくことを知る。
この映画を観た夜は、残照の中で今を生きている吾身を思い、晩酌の焼酎をトリスに替えて、半世紀前の東京を引き寄せる。 (鱧)
それでも3日の雨の日に、中園町の情報芸術センターにあるコミュニティシネマ山口で、往年の名画小津安二郎の「東京物語」を観た。
若い頃、昭和28年に神田松竹で封切を観て以来の小津作品だが、出演者は勿論、千住の煙突や路面電車が走っている東京の風景がなつかしい。
映画は尾道に住む笠智衆・東山千栄子の老夫婦が、東京で暮らす子供たちを訪ねる物語である。
ゆるやかに水の流れるような自然さで、人生の切実な現象を小津流に展開するが、現代感覚ではいささかテンポが悠然としている感じになる。
尾道は坂の多い港町で独特の風情があり、映画には小津作品だけでなく、尾道出身の大林宣彦の作品にも登場した。
老夫婦の住む家の居間からも、石佛のある坂道にタコの生干しが吊るされているのが見えた。
老夫婦は東京見物を決めて上京する。
子供は医者の長男、美容院を営む長女、戦死した次男の妻たちで、山村聡、三宅邦子、杉村春子、中村伸郎、原節子、香川京子といった面々が登場するが、原と香川を除いてみんな今は亡い。
老夫婦にとって戦後間もない頃の都会生活は、余裕なく回転する歯車のようで、子供たちのくらしもあわただしく乾燥したものに映ったろう。そして現代社会の中では親子の関係が、子供の独立により益々疎遠となってゆくことを知る。
この映画を観た夜は、残照の中で今を生きている吾身を思い、晩酌の焼酎をトリスに替えて、半世紀前の東京を引き寄せる。 (鱧)
Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)
│札の辻