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2004年12月19日

札の辻・21

 例年冬を迎えると萩市笠山の虎ヶ崎一帯にあるヤブツバキ群生林の開花宣言が行われる。ことしは12月3日だった。
 笠山のふもと北側にある虎ヶ崎は、岬状に日本海に突き出た海岸で萩市の離島大島が近くに見え、冬期は北風による汐騒がヤブツバキの樹間の道まで聞こえてくる。
 ヤブツバキは太古から日本列島に原生する花木で、自然分布の北限は青森県の夏泊半島、南限は屋久島で照葉樹林のある西日本と、対馬暖流の北上する日本海沿岸に目立って多い。
 夏目漱石はツバキの落花に格別な興味をもっていたらしく「草枕」のなかで「あの花は決して散らない。崩れるよりもかたまったまま枝を離れる」と書き、「虞美人草」にも「それから」でもツバキの落花が象徴的に書かれている。また物理学者の寺田虎彦には「椿の花」というエッセイがあり「ツバキの花はうつむき落ち途中反転してあおむきになる」と記し、「ツバキの花の空中落下の特異な運動について」という英文レポートもあるようだ。
 デュマ・フィスの小説を台本にしたオペラ椿姫は劇中に乾杯の歌などの名曲で名高い。劇の主人公マルグリット・ゴーチェは毎夕劇場通いをしたが必ずオペラグラスと椿の花を持ち、1ヵ月のうち25日は白椿であとの5日は赤椿だった。彼女の買いつけの花屋のおかみさんは椿姫という渾名をつける。しかし姫は赤椿のような血を吐き23年の生涯を閉じた。
 虎ヶ崎のヤブツバキは約2万5千本、来年2月下旬には椿まつりも行われる。万葉集ではツバキを海石榴と書く。         (鱧)


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Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)札の辻
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