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2005年09月11日

札の辻・21

 白玉の歯にしみとほる
 秋の夜の酒はしづかに
 飲むべかりけり

 夏が終わり川土手にススキの穂が出る頃になると、この歌が自然に口をついて出てくる。
 酒をこよなく愛した漂泊の歌人若山牧水が、1910年の初秋に甲州から信州を旅したときの歌で、牧水歌集「路上」に収められている。
 1910年といえば、それよりさきの1907年6月に、東京から郷里の宮崎県に帰省の途中、中国地方の各地を歩き山口にも立ち寄っている。

 幾山河越えさり行かば
 寂しさのはてなむ国ぞ
 今日も旅ゆく

 よく知られたこの歌のあとに中国地方の歌10首がつづく。

 山縫ひてわが汽車走る
 梅雨晴れの雲さはなれ
 や吉備の山々

 岡山からはじまり安芸の宮島を経て山口の瑠璃光寺に至る。

 山静けし山のなかなる
 古寺の古りし塔見て胸
 仄に鳴る

 はつ夏の山のなかなる
 ふる寺の古塔のもとに
 立てる旅びと

 この2首を詠み、歌集
「海の声」には(山口の瑠璃光寺にて)として収録された。
 現在、瑠璃光寺の五重塔近くの木立の中に、若山喜志子夫人書による牧水の歌碑が建立されているが知る人は少ない。
 牧水を感動させた古塔はいま新秋を迎え、塔屋を白玉の朝露にぬらしている。
         (鱧)


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Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)札の辻
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