サンデー山口

　熊本は人吉市出身の友人から「北辰斜にさすところ」の銘がある焼酎が届いた。昨年封切られた神山征二郎監督三國連太郎主演の映画―北辰斜にさすところ―を記念した人吉の醸造場仕込みである。
　北辰斜にさすところ―は鹿児島の旧制第七高等学校造士館の寮歌で、春花薫る神州の　正気はこもる白鶴城とつづき、熊本の旧制第五高等学校の寮歌「武夫原頭に草萌えて」と共に旧制時代を知る人たちには懐旧の情を抱かせる寮歌なのだ。
　映画は七高創立百周年で往年の宿敵五高との記念野球試合開催をめぐり、学徒出陣で特攻戦死した弟への思惑をからめたものだが、試合の撮影は人吉の川上哲治記念球場で行われた。
　旧制ナンバースクールは、一高東京、二高仙台、三高京都、四高金沢、五高熊本、六高岡山、七高鹿児島、八高名古屋で各々のもつ寮歌は学生ばかりでなく市民にもひろく親しまれたものだ。
　嗚呼玉杯に花うけて（一高）、紅萌ゆる岡の花（三高）と、戦雲きびしいなか学徒出陣の壮行会でも学生達は、抑圧された真理探究の道に想いを馳せ、征くも送るも寮歌の熱唱に血を滾らせた。
　焼酎―北辰斜にさすところ―に思った。宮沢賢治の盛岡高農、小林多喜二の小樽高商など、戦前は各地方に特色のある高専が存在し、受験世代は南から北へ北から南へ、学究と寮歌の青春に燃えていたと。　
　　　　　　　（鱧）