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2008年10月18日

札の辻・21

 過日、一の坂川近くに住む友人K氏から、たわわに実をつけたナツメの一枝が届いた。
 司馬遼太郎の小説「坂の上の雲」や「殉死」で長州出身の乃木希典を、愚将と位置づける司馬史観を正すべく、日露戦争を中心に人間乃木の人生軌道を克明な資料で反論した古川薫氏の著作「斜陽に立つ」の感想を私が本欄に書き、その中で乃木将軍ゆかりの唱歌「水師営の会見」の一説“庭に一本棗の木”で、わが故郷の家にもナツメがあり初秋の頃食べた味の思い出を記したことから、友人はわざわざめずらしいナツメの実を持参してくれたものだ。
 中国遼東半島は旅大市・水師営の集落にも見るごとく、ナツメは中国が原産で日本への渡来はかなり古く、大和地方の古代住居跡からも出土し、江戸時代中期の「和漢三才図会」によると、摂津池田のナツメは質が良いとの記録もある。
 水師営の会見は1905(明治38)年1月、戦火を浴びナツメの木と共に残る廃屋で行われた。
 古川薫氏は会見について次のごとく述べる。
 ―敗軍の将ステッセルに示した乃木希典の紳士的な応対は、各国からの報道陣をいたく感激させた。「これが武士道というものか」彼らは両将軍の会見の模様を感動的な記事にして発信し、欧米の各紙を通じ世界にひろがった。―と。
 到来のナツメは甘酸っぱい舌ざわりで、まるで水師営の歌を噛むような気分になった。        (鱧)


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Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)札の辻
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