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2008年11月29日

札の辻・21

 初冬の日ざしが暖かい日仁保の秋川牧場よりさらに奥へと、山ふところに抱かれた彫刻家田中米吉氏の制作現場を訪れた。そこはアトリエ風でなく町工場を思わせる広いスタジオだった。
 まず前庭に造成された芝生の丘に、宇部市の野外彫刻展にも展示された鉄製の動く巨大ボックスが眼を惹く。このオブジェは背後の山並みを借景にスチール製の太い円柱に支えられ、遠心力で2トンもある物体が重量感も見せず、触れると縦横に動き微風にもゆっくりと回転する。
 冬近い樹林の山肌に囲まれたこのオブジェは、市中のどこかに移設すれば街のプロフィルにもなると思った。
 工房には先月名古屋での田中米吉展に出品した作品の一部や、現在制作中の幾何学的なデザインの鉄枠が並び重い鉄の匂いがあった。その側面に開けられた無数の穴のひとつから覗くと零から無限へと宇宙的にひろがる視野を感じる。
 このほか田中氏が太平洋戦争中に学徒動員で海軍の特殊潜航艇建造に関わったとき、水圧による艇内の空間と人体のアンバランスな体感からヒントを得たという無重力的に動くオブジェもある。
 私は思索の原点を仁保の山麓に求め、発想の湧く限り新メカニズムを追求すると言った田中氏のことばと、既存の彫塑枠からの脱却を図るその姿勢と風貌に「山口のクロサワが居る」とひそかに思いながら落葉のつづく山道を降った。            (鱧)


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Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)札の辻
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