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2009年05月23日

札の辻・21

 作家立原正秋の直木賞受賞作は「白い罌粟」である。現代社会を成立させているすべての機構を否定し、虚無的でサディスティックな主人公が最後には狂って、白いケシの花が庭一面に咲き乱れる幻覚に捉われるというケシのもつ麻薬性に絡めた作品だった。
 入梅時期が近くなる頃から咲く花には白い花が目立ってくる。
 ヤマボウシ、シャクナゲ、ツツジなどで、北原白秋作「からたちの花が咲いたよ、白い白い花だよ」の詩もなつかしい。
 福岡出身の作家長谷健には白秋をモデルにした小説「からたちの花」があり、彼は酩酊すると「ゲズゲズの花が咲いたよ白か白か花だよ」と九州弁で唄ってきかせた。
 やはり作家の澤地久枝は満州から引き揚げた戦後の一時期を防府で過ごす。彼女はこのときはじめて夏ミカンの甘酸っぱ
い味を知り後に萩を訪れた日の随想を書く。
 -萩の町は春さきなのに秋のような色をした青空を背景に、白壁の武家屋敷の塀にかぶさる緑の葉陰には夏ミカンの実が金色に光っていた。
 いま私の住む家の小さな庭に母が植えて育った夏ミカンの樹がある。この樹に心を惹かれるのは年に一度饗宴のような花の季節があるからで、黄色の蕊の白い花がむせかえるほどに清冽な香りを放ってくれ、古い萩の町並みと亡き母の思い出につながる-と。
 これから青葉闇に梔子の花も匂う。(鱧)


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Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)札の辻
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