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2009年10月03日

札の辻・21

 河畔に住むと葦原をわたる川風が秋を身近に感じさせ、
 あはれ
 秋風よ
 情あらば伝へてよ
の佐藤春夫「秋刀魚の歌」も浮かぶ。彼は和歌山県新宮市の出身で、紀伊勝浦駅前には秋刀魚の歌の詩碑がある。
 親潮と呼ばれる千島列島よりの海流は寒冷前線が迫ると、北海道沿岸を海藻やサンマを育てながら三陸沖へと南下し、やがて房総から紀州沖へと向かう。この時期には潮ノ岬をかすめて北上する黒潮が親潮に対流し、サンマの群れは潮流に阻まれ熊野灘を回遊するから刺網で水揚げする。これを紀州の方言でサエラ(サンマ)漁という。
 人妻に恋をして離婚、再婚を遍歴し落莫たる心情のはてに詩人は
 今日の夕餉にひとり
 さんま食ひて
 思ひにふけると
と歌い、さらに青き蜜柑の汁をたらしサンマのほろ苦い腸を味わう。
 築地市場では古くから隠岐の鮑、馬関の河豚、秋田の雷魚、水戸の鮟鱇、若狭の鰈、広島の牡蠣、佐渡の烏賊、駿河の甘鯛、などの呼称があって秋刀魚は房州とされているが、房州の秋刀魚は紀州の漁師から伝えられた刺網漁法によると「築地見聞録」に付記する。
 ともあれ、いまどきは山口でもイキの良い銀色肌をしたサンマが手に入りやすい。
 さんま さんま さんま苦いか塩っぱいか、秋潮の運ぶ味覚。 (鱧)


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Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)札の辻
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