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2010年04月24日

札の辻・21

 花の盛りに冷えびえとした肌寒い日もあった四月も「行く春」や「春愁」という言葉をそこはかとなく感じるようになってきた。
 日本列島は南北に長く温度差による森林植生帯の区分があって、新緑がひときわ鮮やかな落葉樹林は東北地方を中心とする北日本に多い。
 関東以西は常緑広葉樹が目立つがクスノキやシイノキなどは個性的な新緑美を見せてくれる。
 東北は山形生まれの作家井上ひさし氏が先日亡くなった。
 氏は幼少時代を仙台市郊外のカトリック養護施設で過ごすなど恵まれぬ生活体験を経て上智大学フランス語科を卒業、浅草のストリップ劇場フランス座の文芸部に勤めたことが劇作活動の原点となり、1964年にはNHKの人形劇「ひょっこりひょうたん島」の台本で知られるようになる。小説「手鎖心中」で直木賞を受賞後は東北の寒村を舞台にした「吉里吉里人」など人間味溢れる作品の数々があった。
 想い出がある。氏は毎年2月に東京と大阪で交互に開かれる司馬遼太郎菜の花忌の常連で、第10回シンポジウム「日本の青春」では「歴史はひとりの英雄だけのものではない。何億万の人々の足あとである。そこに栄光もあれば挫折もある。その中から未来が生まれてくる、歴史は生きものだから粗末にしてはならない」と語っていた。
 今年の菜の花忌に氏の姿は無かった。(鱧)


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Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)札の辻
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