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2011年04月16日

札の辻・21

 樹が生き
 ひとが生きる
 たしかな時と所を
 もち続けながら
     谷川俊太郎

 ケヤキの若芽は淡黄色に美しく雲の動く空を背景に、県庁前のパークロードを幹太りした樹勢を並べているが、もう少しで新緑となり初夏の樹陰をつくってゆく。
 ケヤキ、クヌギ、ナラなど落葉樹林の魅力を記述したのは国木田独歩の「武蔵野」で、独歩はロシア文学の中からシベリアの原生林の自然美を武蔵野の樹林美に重ねたがわれわれ戦中派にしてはシベリアの原野は戦後の抑留犠牲者への哀感が先立ち、画家香月泰男の手記「私のシベリヤ」を想い出す。
 “ナホトカを出港し日本の山が見えるのを待った。日本は緑だった。燃えるような新緑がモヤの中に見えた。シベリヤの索漠なる風景に慣れた目に緑が痛いほど沁みた。山陽線の厚狭から仙崎に向う途中で母の死を知る。シベリヤで故郷を思うたびに妻と子供と母の存在は心の中にあった―”
 春になり雪どけがはじまると、地獄のように思えていたシベリヤが、まるで谷も山も一面の花・花である。美しすぎて絵に描きたいという気持ちも起らぬ。自然はぜい沢だと思った―とも抑留記に香月は書く。
 山口の駅通りから芽吹きのイチョウ、ケヤキへと春から初夏に向かう季節の息吹が新しい。(鱧)


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Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)札の辻
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