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2012年04月21日

札の辻・21

 “澁澤と最後に訪れたのは1986年4月、京都御所の枝垂桜を見て、安芸の宮島に寄り彼がずっと興味を抱いていたディレッタント大名大内義隆の所領だった山口市です。一の坂川両岸に咲く爛漫の桜が流れに影を落して歓迎してくれました”。紀行・美術のエッセイスト故澁澤龍彦氏の未亡人龍子さんが、林芙美子、寺山修司、山口瞳、竹中労など作家15人の旅路を集録した最新刊「作家の旅」の巻末に寄せた一節である。
 その一の坂川河畔へ4月9日に行った。
 例年なら散りはじめるサクラが、ゆるぎも見せぬ満開で、その河岸に立つ旧制山口高校寮歌の碑は萬朶の花影にあった。
 柳桜をこきまぜて
 春も錦となりくれば
 後河原の枝並に
 若き思いを
 寄せるかな
 古典から現代に至る日本文学のよき理解者ドナルド・キーン氏は、「日本の和歌を国歌大観で読むと、つくづくサクラとモミジが過去千年にわたって詠みつづけられておりおどろく」と日本人の季節感を納得する。
 これから晩春を経て初夏へと風景はあわただしい。
 遅い春から急がれているのは落葉樹の芽吹きである。昨日まで裸木であった樹々に薄い緑の芽が点々とひろがり旬日間に樹勢の諧調を展開しつづける。
 この曇り空から五月晴へと間もなく鯉のぼりが泳ぐ。(鱧)


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Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)札の辻
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