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2014年12月30日

札の辻・21

 「酒に地酒があるように豆腐にも地豆腐があったほうがいい」と言ったのは司馬遼太郎である。
 食べものに好き嫌いの多い司馬にしては豆腐についての記述が多い。
 それは豆腐好きといわれた大村益次郎をテーマにした「花神」を書いたとき、豆腐に関する資料をあつめ自らも豆腐を食べて精緻に調べた余熱だと自ら解説している。
 メシと味噌汁という江戸期からの庶民のパターンは連綿と続き、洋風化の普及した今日でも飽きる事なくうけつがれている。米食の日本民族は豆腐という蛋白源の利用に根を下ろし何百年と民族の味覚としてゆるがない。豆腐が庶民に知られたのは室町期以後で、僧侶の日常食として寺の多い京都で発達し門前町には豆腐屋が軒を連ねたという。江戸後期になると豆腐は庶民の身近な食べ物となり都会地はもとより、農漁村にまで豆腐屋が定着しとりわけ魚の少ない山村では豆腐が第一の蛋白源であった。欧米を牛乳文化圏とすると東南アジアは大豆文化圏となる。
 池波正太郎の小説に「梅雨の湯豆腐」がある。
『とどけられた豆腐と油揚げを細く切り土鍋に入れ火鉢にかけた。彦次郎が何より好きな湯豆腐である。湯豆腐と焼海苔で酒をのみはじめた。梅雨の冷えに湯豆腐はことにうまい』
 梅雨期に独りで食べる殺し屋の寂寥感と季節感が巧みに表現されている。鍋料理で最も繊細で洗練された味は湯豆腐だという。(鱧)


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Posted by サンデー山口 at 00:00│Comments(0)札の辻
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